アホと合氣道

会主 丸山維敏

 

 先のこの欄で、歌舞伎の名優故中村勘三郎さんの言葉を載せました。「伝統は続く。何故続くのか。面白いからだ。それは心意氣と美しさの中にある今を活きる人間の心の叫び、明るさなのだ」

 

 この面白さ、明るさを突き詰めていくと究極は「笑い」になります。

 

 今、日本中がコロナ禍に落ち入り人々の顔から笑顔が消えたような氣がします。いくらマスクで顔を覆っていても笑顔ぐらいはわかります。否、笑顔どころか、これから良いことは無いと云って、何の関係もない人々を襲って殺し、自分も自殺しようとする目や耳を疑うような、ケダモノ以下の人間が増えています。

 

 私が師事していた中村天風先生は、ことある毎に「笑え!」と云われました。私の親友である合氣道の故平田先生は、毎年のように私を彼の住むアメリカのシアトルに招待してくれましたが、必ず稽古の始まる前に全員で「ワッハッハ」と三回笑いました。また私が公私共に親しくさせて頂いた故佐々木将人先生は、

 奥様がご病氣でお亡くなりになる時、「笑え!」と云われて、奥様はニッコリ微笑んでお亡くなりになりました。平田先生も、佐々木先生も今は泉下の客となられましたが、お二人ともそのご最後は笑顔だったとお聞きしました。

 

 筑波大学名誉教授で遺伝学の権威である村上和雄先生は、そのご著書の中で「苦しいときこそ笑っていられる」ようなアホやバカが、今こそ必要なのだ。と書かれております。

 

 先生に云わしめれば、神の好きなものは「器の大きなバカ」「素直で正直なアホ」なのだそうです。先生が身を置く学問の世界でも、すぐれた成果をあげたり、大きな発見をする人は総じて、どこか鈍いところを持っているそうです。例えば、エジソンやアインシュタインは、若い時は落ちこぼれの劣等生だったそうで、アインシュタインなどは落第して不登校になったり、学校へ行ったら行ったで、物理の先生から「お前には物理の才能がないから学科を変えたほうがいい」と云われた逸話が残っています。物理の世界でナンバーワンとなったアインシュタインが、その時を思い出して「ザマァ見ろ」と言わんばかりに大口空けて笑いながら長い舌を出している写真は有名です。

 

 我が国で初めてノーベル賞を受けた中間子理論の湯川秀樹先生も、京都大学の学長を務めた脳科学の権威の平澤興先生も、若い頃は成績がふるわず「中学、高校と私は劣等感のかたまりでした」とこぼされていたそうです。

 

 アップルコンピュータの創始者でマッキントッシュを開発したスティーブ・ジョブズも世界中の人が認めた「落伍者」となったこともあり、その彼の言葉に「ハングリーであれ、愚かであれ」と云うのがあります。その意は「枠にはまった優等生、皆からほめられるようなお利口さんになんかなるな。こざかしく、小さくまとまるくらいなら、愚か者であるほうを選べ、それも、常識なんかはみ出してしまう器の大きなバカになれ。」だそうです。

 

 笑いの話に戻りましょう。

 

 村上先生が糖尿病の人達を相手に実験をしたお話をご著書で拝読しました。長くなりますので要約すれば、食事をした後は、健康な人でも血糖値が上がるそうですが、糖尿病の人は、その上昇度が顕著だそうです。

 

 先生は二十五名程の糖尿病の人達を集め、二日かけて実験されたそうです。一日目は食後、糖尿病の専門医に頼み、面白くもおかしくもない、ごく真面目な講義をしてもらいました。翌日は同時刻に同時間だけ、吉本興業から著名な漫才師を招いて、大いに笑ってもらったそうです。この実験は、二日間の食事内容から全てが同じだったそうです。そしてその結果は、前日のぐんと血糖値が上がったのに対し、笑った日はごくわずかしか血糖値が上がらなかったそうです。笑いの効果は歴然としています。

 

 私が事ある毎にその話をすると、必ず「おかしくもないのに、笑うマネなどできない」という答えが返ってきます。実を申せば私も始めはそう思っておりました。このコロナ禍で家に閉じこもり、仕方なく、部屋で合氣型、その他の運動をしている中、「そうだ、笑ってみよう」と思い、運動後、秘書の近藤美江子さんと共に、大声で「ワッハッハァ!ワッハッハァ!」と八回笑うことにしました。顔だけでなく、正坐して全身を振るわせ、腹から声を出すのです。その結果は何と、全ての事柄、特に心に掛かっていた心配事、また健康診断で医者に注意された身体の数値が完璧に改良され、医者から「健康そのものです」というお墨付きを頂きました。

 

村上先生の御著書「生命の暗号」(サンマーク出版)によりますと、人の遺伝子はA、T、C、G、の四つの文字で表わされる三十億の情報をもとに細胞をはたらかせるのですが、実際にはたらいているのはわずか五%程度だそうです。「心が身体を動かす」と云われたのは中村天風先生ですが、村上先生に云わしめれば、心が身体に命じて何かを実行するためには遺伝子のはたらきが絶対必要なのだそうです。

 

 今、はたらいていない遺伝子をONにするには、日常生活を「イキイキ、ワクワク」と笑って前向きに暮らすことだそうです。

 

 「病は氣から」「笑う門には福来たる」古人はきっと体験上このことを知っていたのでしょうね。

 

 幸せは向こうからは来ません。自分からつかむのです。

 

 アホになり切って大口あけて笑いましょう。

 

 合氣道の開祖は「稽古は笑ってするものじゃ」と云われました。

 

 誰も見ていません。一日最低三回、さぁ笑いましょう。「ワッハッハッハァ」